安達弾~打率2割の1番バッター~ 第12章 夏の甲子園千葉大会開幕⑧

(ようやく逆転したか。全く、冷や冷やさせやがって)

「村沢、今日の登板はなしだ。佐藤、7回からいくぞ!」

「はい!」

(なんとか計画通り、村沢を温存することができた。これで明日の決勝戦、うちの勝利はより確実なものになったな)

 7回裏。三街道は意地を見せる。先頭バッターの1番堀川が、立ち上がりのコントロールに苦戦する佐藤から粘ってフォアボールを奪うと、2番バッターの佐々木がきっちりとバントで2塁に送る。そして3番バッター角田がツーベースヒットでランナーを返し、試合を振り出しに戻した。

 しかし8回表。龍谷千葉は疲労困憊の細田から1本のホームランを含む3点を奪い、9回表には2本のホームランを含むダメ押しの5点を追加する。

 そして9回裏。三街道は角田がソロホームランを放つも、反撃はここまで。一時は勝利を期待させた三街道の健闘も虚しく、最終的には下馬評通りの試合結果となった。

      123456789 計
 龍谷千葉 000000235 10
 三街道  100000101 3

 試合終了後、涙を流す三街道ナインに大泉監督が優しく語りかける。

「みなさん、よくここまで頑張りました。特に細田君、準決勝までずっと1人でよく投げ抜いてくれましたね。最後は残念でしたが、あなたの投球は確実に龍谷千葉にも通用していましたよ。もしもあなたが万全な状態で投げれていたら、勝てていた可能性は十分にありました。そして来年、うちには細田君の弟さんが入ってきます。遅咲きのお兄さんとは違って、弟さんの方はすでに全国でも名の知れたピッチャーとなっています。きっと即戦力となってくれることでしょう。今年は残念ながら甲子園出場の夢は果たせませんでしたが、最低でもピッチャー2人態勢で臨める来年は十二分に可能性があります。3年生のみなさんはもう甲子園は目指せませんが、1、2年生のみなさんはその3年生の思いも背負って、今からまた来年の甲子園を目指して頑張りましょう!」

「はい!」

「龍谷千葉、やっぱり強かったな」

「いくら細田が疲れていたとはいえ、あそこから10得点か」

「龍谷千葉の打撃破壊。まだまだ健在だな」

「健在どころか、俺達が試合した時よりもパワーアップしてねーか」

「果たして俺達は、あんな強い相手に勝てるのだろうか」

 龍谷千葉対三街道の準決勝を観戦していた船町北高校のメンバーが、龍谷千葉の強さを目の当たりにして弱気になっていたその時、エースの黒山が一喝した。

「おいおいお前ら、何を弱気になってんだ! 明日は俺が投げるんだぞ。勝つに決まってんじゃねえか!」

「さすがエース。心強いねえ」

「監督」

「学校に戻ったら、明日の決勝戦に向けての作戦会議と最終調整だ。1分1秒が惜しい。弱音を吐いてる暇なんかないぞ!」

「はい!」