安達弾~打率2割の1番バッター~ 第12章 夏の甲子園千葉大会開幕⑦
絶対王者の龍谷千葉と、無名校の三街道。下馬評では圧倒的に龍谷千葉が有利だと思われていた。しかし、6回を終えてのスコアは、初回に奪った1点を守り切り三街道がリードするという予想外の展開が続いていた。しかも三街道先発の細田が、未だにヒット1本どころか出塁すら許さないパーフェクトピッチングを続けているというおまけつきで。
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龍谷千葉 000000
三街道 100000
5年連続甲子園出場という絶対的王者を、無名校が倒す。そんな漫画のような展開が現実を帯びていき、観客は三街道を応援する声が回を追うごとに大きくなっていった。
そんな中、冷静に試合の行く末を見守る集団がいた。そう、船町北高校野球部のメンバー達だ。
「三街道すごいっすね。このまま勝つんじゃないですか」
「しかも、細田の完全試合で」
1年生の安達と2年生の星が三街道勝利を予想する中、3年生部員達は全く逆の予想を始める。
「いや、7回以降細田は崩れる」
「間違いないな」
「俺も鶴田と黒山に1票」
「俺も鶴田と黒山と水谷に1票」
「俺も1票」
「俺も」
「俺も」
「えっ?」
「何か理由でもあるんですか?」
「1回から5回まで、細田のストレートは平均150キロ前後出ていた。それが6回からは、140キロの中盤から140キロを切ることもあった。すでに細田の体力は限界を迎えつつある」
鶴田の解説に黒山が付け加える。
「あいつは準決勝に上がるまで6試合も1人だけで投げてきた。その蓄積した疲労に加えて、今日は龍谷千葉を抑え込むために相当力を入れて投げていたみたいだからな。1番から9番まで気の抜けない龍谷千葉打線を相手に投げる疲労度は、並みのチーム相手の2倍は下らない」
「わかるわー」
「俺もそうだった」
過去に2度龍谷千葉との対戦経験がある白田と水谷も、龍谷千葉を相手に投げる大変さを熟知していた。
「なるほど」
「さすが先輩達。勉強になります」
「まっ、経験の差かな」
「お前達もこれくらい試合を深く見られるようにならないとな」
「これからじっくり経験を積んで頑張れよ」
本当はそこまで深く理解できていなかったが、鶴田や黒山達の意見に乗っかって最初からわかっていた風を装いながら先輩風を吹かす、福山、新垣、尾崎の3人であった。
7回の表。先頭バッターの清村兄に対して細田が投げた初球は、142キロのストレート。コースも甘く入ったその球は、清村兄にあっさりとセンター前に運ばれた。
(3度目の対戦でようやく細田のストレートにも慣れてきたな。しかも球速が落ちてきている。さあ、先輩達も俺に続てくれよ。この回で一気に逆転だ)
しかし、細田も意地を見せる。球速が落ちてきたストレートをカバーするためカーブの割合を増やしたり120キロ代の遅いストレートを見せ球に使うなど、キャッチャー太田の配球面でのサポートも受けながら、なんとか2番小林3番鈴木を打ち取っていた。しかしその間、清村兄は盗塁を2つ決め3塁まで進んでいた。
(細田も頑張るねえ。ていうか、先輩達だらしねえなあ。せっかく2回も盗塁決めたのに。しょうがない。総次郎、お前が決めてやれ)
「カキーン!!!!」
細田のカーブを完璧に捉えた4番清村弟の、センタースクリーン直撃の特大ツーランホームランにより、龍谷千葉はついに三街道を逆転した。
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龍谷千葉 0000002
三街道 100000
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