安達弾~打率2割の1番バッター~ 第12章 夏の甲子園千葉大会開幕⑥

2020年11月16日

 2番バッター小林、三振。

 3番バッター鈴木、三振。

 1回の表。龍谷千葉の攻撃は、細田の球にバットを当てることすらできないまま三者連続三振に倒れた。

「細田、ナイスピッチ!」

「太田こそ、ナイスリード!」

「この調子で最後まで頼むぞ」

「おう!」

 1回の裏。三街道の攻撃は、1,2番の2人が共に山田の山なりスローボールを打ち上げてしまい2アウトとなっていた。

(ピッチャーの細田はなかなかやるみたいだが、攻撃の方はからっきしだな。そんなからっきしの打線の中でも、この3番だけは要注意だ。角田聡、この大会だけで5本のホームランを打っていて打率も5割に届く勢い。うちのレギュラーと比べても遜色のないレベルのバッターだ。まっ、8本打ってる俺ほどではないがな。こいつにならヒットを打たれるのはしょうがない。最低限ホームランを防ぐためにも山なりの軌道で長打を打ちづらいスローボールとスローカーブだけでカウントを取りにいこう。この2種類の球をホームランにされたのは、後にも先にも船町北の安達だけ。多分大丈夫なはずだ)

 3番の角田に対する初球は、外角へのスローカーブ。

「ストライク!」

 2球目は、真ん中高めのスローボール。

「ストライク!」

(2球連続で見逃してきたか。ということは、ストレートを狙ってる? ならお望み通り投げてやるか。外にだけど)

 3球目。キャチャーの清宮弟は、ボール2つ分外に外れたコースにストレートを要求した。

(振ってくれたら儲けもん。振らなくても見せ球になる。どっちに転んでも悪くない)

 山田が投球動作を始めた瞬間、角田は突然ベースよりに体を移動させた。

(やばい!)

 清宮弟は咄嗟に危険を感じてミットの位置をさらに外よりに移動したが、山田は最初に清宮弟が構えていたボール2つ分外に外れたコースに投げてしまった。

(狙い通り!)

 角田は外に外れたストレートを豪快なスイングで強引に打ちにいくと、打球は低い弾道でライト方向へと伸びていき、そのままスタンドに突き刺さった。

「ナイスバッティング!」

「ナイスホームラン!」

「いいぞ角田!」

 盛り上がる三街道ベンチ。

「いいぞ三街道!」

「頑張れ三街道!」

「下剋上してやれ!」

 盛り上がる観客席。

(完全に俺の配球ミスだ。もっとしっかり外に外すべきだった。この借りは……バッティングで返してやる)

 2回の表。この回の先頭バッターは、4番の清村弟。

(あの兄ちゃんが三振を食らうほどの細田の球。果たしてどれほどのものか)

 初球。内角低めにストレート。見逃しのストライク。電光掲示板版には、148キロと表示されていた。

(速さやキレでいったら船町北の黒山のストレートの方が若干上。だけど角度がつくせいで黒山とはまた違った打ちづらさがあるな)

 2球目、内角へのカーブ。見逃しのストライク。

(このカーブもやっかいだ。山田先輩のスローカーブほどじゃないけど、身長が高い分山田先輩並みの角度がついていてスピードも速い。完全に山田先輩のスローカーブの上位互換だな)

 3球目、外角の低めに外れるスローカーブ。見逃しのボール。

(振りそうになった。危ない危ない。追い込まれてるからって焦るなよ俺。どんな厄介な球だろうがストライクになる球は、ベース上を通過する以上打てない球なんてないんだ)

 4球目、細田の投じた球は、初球と同じ内角低めへのストレート。清村弟はフルスイングで打ちにいったが、バットは無常にも空を切った。

「ストライク! バッターアウト!」

(速さやキレでいったら黒山のストレートの方が若干上っていうさっきの見立て、修正しないとダメだな)

 電光掲示板には、154キロの文字が刻まれていた。

      123456789
 龍谷千葉 0
 三街道  1