安達弾~打率2割の1番バッター~ 第12章 夏の甲子園千葉大会開幕③
2016年7月20日。夏の甲子園千葉大会準決勝第1試合。船町北VS千葉修道の試合が始まった。
船町北高校スターティングメンバー
1星(中) 2福山(三) 3黒山(右) 4安達(一) 5新垣(二)
6尾崎(遊) 7白田(左) 8水谷(投) 9鶴田(捕)
(船北の先発は水谷か。アンダースローとオーバースローの二刀流。前回はあっけにとられて対策できないまま負けてしまったが、今回は違うぞ。スライダー・カーブ・シンカー・シュートと多彩な変化球があるアンダーに比べて、オーバーはチェンジアップのみ。このデータから導き出される最良の対策は……オーバーからの投球に狙いを絞る。シンプルイズベスト。この作戦で水谷を打ち崩してくれるわ)
1回の表。千葉修道の1番バッターは、1ボール2ストライクからの4球目にきたオーバーからのストレートを打ちにいくも、空振りの三振に打ち取られた。
(打席からだと映像で見てた以上にオーバーとアンダーの見分けが投げる直前までつきづらい。そのせいで打つタイミングが一瞬遅れてしまった。次の打席までには修正しないとな)
続く2番バッターはオーバーからのチェンジアップを、3番バッターはオーバーからのストレートをそれぞれ打ち上げてあっけなくアウトとなった。
1回の裏。船町北の攻撃は、3番黒山、4番安達の連続ツーベースヒットで先制点を奪った。
2回の表。4番の真山元太は、この日の対戦を、人一倍待ち望んでいた。
(春の大会でやられたあの屈辱……絶対晴らしてやる)
初球。オーバーからの外角低めのストレート。見逃しストライク。
(なるほど。さっき水谷と対戦した3人が言っていた通り直前まで見分けづらいフォームだが、俺のスイングスピードならギリギリまで見てから振っても間に合うはずだ)
2球目。アンダーからの内角低めのシンカーで2ストライクと早くも追い込まれた真山だったが、頭は冷静だった。
(アンダーならカットでさばく。オーバーならストレートだろうがチェンジアップだろうが確実に仕留めてやる)
3球目。水谷が投げた投球フォームはオーバースローだった。
(速い。外角へのストレートだ!)
真山は瞬時に球のコースを予測しながら素早いスイングで外角へきた球を打ちにいくも、その球は直前で外へ少し変化した。
「カーン!」
バットの頭に当たった打球は、ボテボテの内野ゴロとなった。
(クソ! なんだ今の球は! 少し曲がったぞ。あんな球、データにはなかったはずなのに)
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2016年7月7日。夏の甲子園千葉大会が始まる直前、船町北高校の投手陣とキャッチャーの鶴田が鈴井監督に呼び出された。
「甲子園に出場するためには、準決勝と決勝に勝たなければならない。まあ当たり前の話だが、いかにしてこの2試合の勝率を上げていくかが甲子園出場への鍵になってくる。今のところ準決勝は水谷と白田の2人だけで投げてもらう予定だ。準決勝は20日、決勝は21日と連戦になるからな。黒山を完全休養させて万全の状態で決勝戦に臨んでもらう」
「はい」
「そしてここからが大事な話だが、準決勝まで勝ち残るには5試合勝たないといけない。つまりこの5試合分のうちのチーム情報が、相手チームに研究されてしまうということだ。そこで相談だが、準決勝までの間、投手の3人には切り札となる変化球を封印してほしい。黒山と水谷ならカットボール、白田なら曲がり過ぎるスライダーだな。情報戦を優位に進めることができれば、それだけ勝率は上がってくる。ただし、準決勝の前にうちが負けそうな強敵チームが訪れた場合に限って、解禁を許可する。準決勝前に負けてしまっては元も子もないからな」
「大丈夫ですよ。俺がしっかりリードして、切り札の変化球なしでもしっかり抑えてみせます」
「頼もしいな。それじゃあみんな、しっかり頼むぞ」
「はい!」
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