安達弾~打率2割の1番バッター~ 第12章 夏の甲子園千葉大会開幕②

(この新聞も、この新聞も、これもこれもこれもこれも、船北と龍谷ばっかり。うちの記事は無名の三街道以下って、ふざけんなよ!)

 伊藤監督は、千葉修道高校野球部の監督に就任してから今年で10年になる。打撃重視の攻撃型野球をチームに根付かせ、6年前には悲願の甲子園初出場を果たした。

『打撃破壊』

 甲子園でもその攻撃型野球で観客を魅了し、初出場ながら甲子園ベスト8という記録を残した千葉修道に付けられたキャッチコピーだ。

(今年の目標だった甲子園出場は果たした。次なる目標は打撃破壊で甲子園優勝だ)

 しかし、伊藤監督が掲げたその目標は、無残にも打ち砕かれた。

 

 2011年 夏の甲子園千葉大会決勝

 千葉修道 11-12 龍谷千葉

 

 千葉修道と似た攻撃型野球で甲子園初出場を決めた龍谷千葉高校は、甲子園でもその攻撃型野球で観客を魅了し、初出場ながら甲子園ベスト4という記録を残した。

 その後も龍谷千葉高校は攻撃型野球で活躍を続け、いつしか5年連続甲子園出場という千葉の絶対王者に君臨していた。

『打撃破壊』

 かつては千葉修道に付けられたそのキャッチコピーも、いつしか完全に龍谷千葉のものとなっていった。そして代わりに付けられた千葉修道のキャッチコピーは、伊藤監督にとって屈辱的なものだった。

『龍谷の劣化版』

(5年前の決勝でうちが龍谷千葉に負けて以来、せっかくスカウトしていた有望な選手も龍谷に流れていくことが多くなり、実力差も徐々に広がっていった。でも今年は違う。中学時代はそこまで活躍できていなかった選手達が、うちに入ってからの猛練習の末、才能を開花させ始めている。4番の真山なんかがその典型例だ。この大会でもホームラン6本を打つ活躍を見せている。まあ船北の安達と龍谷の総次郎のせいで目立っていないがな。今年こそ龍谷千葉に勝って、打撃破壊の称号を取り返してやる)

 そんな中、つけっぱなしにしていたテレビで甲子園特集がスタートしていた。

(おっ、一応チェックしておくか)

「さて、いよいよ甲子園予選も準決勝まで進みましたが、この4校はそれぞれどのようなチームですか?」

~~~~中略~~~~

「この船北旋風がどこまで続くのか、本当に楽しみですね。甲子園のニュースは以上です」

(テレビでもこの扱いか。この流れを変えるには……明日の準決勝、船北に勝つしかないな。春の大会では1点も取れないまま屈辱的な負け方をしてしまったが、アンダースローの投手が突然オーバースローで投げ始めたり、スライダーとシュートだけだと思ってたピッチャーが突然フォークを投げ始めたり想定外のことが多すぎたからな。今回は船北の投手陣を1試合目からじっくり研究してきた。この万全の状態で試合に臨める以上、普通に点は取れるはずだ。勝機は十二分にある。船北旋風なんか軽く吹き飛ばしてくれるわ)