安達弾~打率2割の1番バッター~ 第12章 夏の甲子園千葉大会開幕①

2021年10月5日

 2016年7月7日。甲子園出場を願う高校球児達が集う夏の甲子園千葉大会が、丁度七夕の日に開幕した。春季大会でシード権を獲得している船町北高校の初試合は、7月9日だった。 

 七千代 0-14 船町北 

 白田、水谷、黒山がそれぞれ3回ずつ投げて無失点。被安打は白田が打たれた1本のみ。一方打線の方は全員安打の14得点。特に4番の安達は5打数4安打1四球2本塁打という大活躍だった。

(夏の大会の初試合という特有の空気の中でも、いつも通りのプレーができていた。打線の爆発や投手陣の活躍、そして何よりエラーが安達含め0。出来過ぎなくらいの最高のスタートだ)

 7月13日。夏の甲子園千葉大会3回戦。船町北にとっては2試合目となる試合が行われた。 

 船町北 12-0 鎌谷  

 白田、水谷、黒山がそれぞれ3回ずつ投げて無失点。被安打は水谷が打たれた1本のみ。一方打線の方は全員安打の12得点。特に4番の安達は5打数3安打2本塁打という大活躍だった。

 その後も船町北高校は、7月15日、17日、18日と快勝を重ねていった。

 15日(夏の甲子園千葉大会4回戦)

 船町北 11-0 国分坂   

 17日(夏の甲子園千葉大会5回戦)

 浦高 0-10 船町北     

 18日(夏の甲子園千葉大会準々決勝) 

 船町北 8-0 千葉商

 

 地元のテレビ番組では、甲子園の話題で盛り上がっていた。

「さて、いよいよ甲子園予選も準決勝まで進みましたが、この4校はそれぞれどのようなチームですか?」

「まずは千葉修道高校ですが、こちらは打撃のチームとして知られています。今大会でも1試合あたりの平均得点が13とその打撃力は健在です。一方で守備の方はと言うと、1試合あたりの平均失点が4.4、また毎試合1つ以上は必ずエラーをしているなど若干不安が残りますね」

「なるほど」

「その千葉修道高校と似たタイプのチームと言えるのが絶対王者の龍谷千葉高校ですが、その攻撃力は群を抜いています。今大会では1試合あたりの平均得点が18と千葉修道以上の圧倒的な爆発力を見せています。そしてこの圧倒的な爆発力の中核を担っているのが、双子の1年生清村兄弟です。兄の聡一君はチーム打率1位で盗塁もバンバン決めるリードオフマン。一方弟の総次郎君はチーム本塁打数1位の典型的なスラッガーと、双子でありながら全くタイプの異なるバッティングで活躍しています」

「兄弟揃って大活躍なんてすごいですね。そして、その絶対王者に準決勝で対戦するのが」

「三街道高校です。今大会での平均得点は5と打力では完全に劣っています。しかしながら、2年生エースの細田君がたった1人で全試合を投げ切って接戦をものにしてきました。判官びいきになってしまいますが、個人的には三街道に頑張ってもらいたくなりますね」

「なるほど。それは応援したくなりますね」

「そして最後に紹介するのが、優勝最有力候補と目される船町北高校です。なんといっても船北の魅力はその投手力にあります。すでにドラフト候補にも挙がっている本格派左腕の黒山君を始め、アンダースローとオーバースローを投げ分けるという前代未聞の投球スタイルで話題になっている水谷君や、サイドスローからの横の揺さぶりと打たせるフォークで相手バッターを翻弄する白田君と圧倒的な投手力を誇ります。その証拠に今大会では未だに失点0。しかも5回戦と準々決勝では継投での2試合連続ノーヒットノーランという快挙を達成しました」

「これはすごい記録ですね」

「しかも、今大会の平均得点は11と打線の方も龍谷千葉や千葉修道には及ばないものの強力です。中でも1年生の4番バッター安達君は、今大会ホームラン10本と2位の総次郎君の8本を抑えて現在トップを独走しています」

「安達君、期待の新星ですね」

「この船北旋風がどこまで続くのか、本当に楽しみですね。甲子園のニュースは以上です」

 このようなテレビ報道や新聞記事、そして千葉県の高校野球好きの間では、5年連続甲子園出場の絶対王者龍谷千葉高校を差し置いて船町北高校を優勝候補に挙げる船北旋風が巻き起こっていた。