安達弾~打率2割の1番バッター~ 第11章 夏の甲子園に向けて⑤
西暦2016年。7月2日土曜日。船町北高校の夏の甲子園千葉県大会初戦まで、あと1週間と迫っていた。
この日の船町北ナインは、今年埼玉の春季大会で優勝している深沢東高校の2つあるグラウンドで、西東京の甲子園大会春夏ベスト4の七王子高校、群馬県の甲子園大会春夏準優勝の渋沢高校を合わせた4校合同の練習試合に参加していた。
「七王子との初戦の先発は白田、渋沢との2試合目は水谷、そして深沢東との3試合目は黒山がそれぞれ先発で最後まで投げ切ってもらう。打順は昨日も話した通り新しい打線で固定する。白田と水谷は打つ方の負担が減った分、投げる方での活躍を期待してるぞ。今日は甲子園前では最後の練習試合になる。相手はどこも強豪だが、気持ち良く3連勝を飾って本番に臨めるように気合入れていくぞ!」
「はい!」
船町北高校新打線
1星 2福山 3黒山 4安達 5新垣 6尾崎 7白田 8水谷 9鶴田
初戦の対七王子戦。先発の白田は、最初の打者1巡目をスライダーとシュートだけでパーフェクトに打ち取った。一方の船町北打線は、最初の打者1巡目で黒山、安達の連続タイムリーツーベースなどを含む3得点を奪っていた。
2巡目に入った七王子打線は、徐々に白田の球を捉え始め初めてのランナーが出るも、ここで新たに解禁したフォークボールでゲッツーに打ち取られるなど、得点どころか2塁以降のベースすら踏めずにいた。一方の船町北打線は、2巡目では無得点だったものの、3巡目には安達のツーランホームランや下位打線がヒットを繋げるなど得点を重ねていった。
そして七王子打線の3巡目。細かいコントロールまでは効かないものの、なんとかストライクゾーンにはコントロールできるように成長した曲がり過ぎるスライダーを解禁した白田の投球に、七王子打線は手も足も出ないまま試合は終了した。
七王子 0-8 船町北
2試合目の対渋沢戦。先発の水谷によるアンダースローとオーバースローを組み合わせた投球術に、渋沢打線は最後まで対抗策を打ち出せずにいた。一方の船町北打線は、1~4番の猛打賞を含むスタメン全員安打を達成するなど打線が爆発。なんと1~7回まで全ての回で得点を入れていた。
(船町北高校ってこんなに強かったのか。春季大会ベスト8という上辺の成績だけで4校中1番格下だと思っていたが、どうやら俺の認識が間違っていたようだな。3番手投手の中岡じゃ相手にならない。球数も130球を超えたし体力的にも精神的にもそろそろ限界か)
渋沢高校野球部監督の小林は、7回まで投げていた中岡の交代を決断した。
「大我。悪いけど8回から投げてくれないか?」
「いいっすよ。次の試合のウォーミングアップがてら、最後だけでもビシっとしめてきますわ」
瀬戸内大我。渋沢高校の1年生ながら2番手投手を任される左の本格派投手。渋沢高校次世代のエースとして期待されているピッチャーだ。
「ストライク! バッターアウト!」
「ストライク! バッターアウト!」
2番福山、3番黒山と連続三振に打ち取った大我はノリに乗っていた。
(このまま三者連続三振でしめて、次の試合に弾みをつけるぜ)
「カキーン!!!!」
安達の特大ホームランにより、渋沢高校は結局全ての回で得点を入れられるボロ負けに終わった。
渋沢 0-11 船町北
(出塁率の高いリードオフマンの星、ここ最近いい当たりが続いている上り調子の福山、怪我の功名で打撃成績が急上昇中の黒山、そして言わずもがなの安達。この4人の上位打線はかなり強力だぞ。そして後ろの打順に白田と水谷を下げたことで下位打線の厚みも増している。果たしてこの新打線が、深沢東のエース近藤にどこまで通用するのか? そして黒山の投球がどこまで深沢東打線に通用するのか? 甲子園前ラストの練習試合、なかなか楽しみになってきたぞ)
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