安達弾~打率2割の1番バッター~ 第11章 夏の甲子園に向けて④

 西暦2016年。6月15日。

 この日は夏の甲子園予選の組み合わせ抽選会が行われる。船町北高校からは、キャプテンの上杉克己が代表して抽選のくじを引きに行くことになった。

「いいか上杉。龍谷千葉と三街道、この2校にだけにはできるだけ当たりたくない。その辺をしっかり考えて抽選するんだぞ」

「監督、抽選なんですから何を考えたって無駄ですよ。まっ、神様にでも祈りながら引いてきます」

 一方その頃、三街道高校では、部員全員によるじゃんけん大会が行われていた。

「じゃんけんぽん! ああ、勝っちゃった」

「よし、優勝は太田だな。ということで、チームの中で1番運の強い太田に抽選会に行ってもらう。太田、うちのチームの弱みはピッチャーが細田1人という所だ。だから強豪校には、できるだけ細田が元気な序盤の内に当たっておきたい。しっかり頼むぞ太田!」

「はい! 行ってきます!」

(元気よく返事はしたものの、そんな注文つけられても抽選なんだからどうしようもねえよ)

 一方その頃、龍谷千葉高校では、1年生のマネージャーがくじを引きに行くことが決まっていた。

「監督、こんな責任重大な仕事、どうして私なんですか?」

「責任重大? うちは千葉の絶対王者だぞ。どんな抽選結果になろうが何の問題もない。ただ目の前の相手をボコボコに打ち崩していくだけだ。まあ気楽に引いてくれよ」

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 船町北高校に、キャプテンの上杉が抽選を終えて帰ってきた。

「上杉、どうだった?」

「監督……すみません」

 そう言って上杉は、抽選結果を撮影したスマホの画面を監督に見せた。

「すみませんって、そんなに悪い結果だったのか? 船町北は……Aブロックか。そして三街道は……Cブロック。そして龍谷千葉は……Dブロック! 三街道とも龍谷千葉とも決勝まで当たらない。しかも三街道と龍谷千葉は準決勝で潰し合ってくれる。こりゃあすごい。考えられる限りうちにとっては最高の組み合わせじゃないか! 何がすみませんだよ」

「運が良すぎてすみません、って意味ですよ。いやー我ながらよくこの場所を引き当てましたよ。もうこれで、キャプテンとしての責任を果たしたも同然ですね。ファーストの守備は安達も随分成長しましたし、わざわざ守備固めで俺が出場するまでもない。まっ、あとは練習のサポートを中心にチームを支えていきますわ」

「いやいや、まだまだキャプテンには頑張ってもらわんと困るぞ! 甲子園の出場が決まったら、また抽選してもらわんといけないからな」

「それまでにもっと、抽選の腕を磨いておかなきゃですね」

「はっはっは! 期待してるぞキャプテン!」

 一方その頃、三街道高校では、抽選から帰ってきた太田が怒られていた。

「何だよこの抽選結果は! おい太田、俺言ったよな? 強豪校とは序盤に当たっておきたいって。それなのに優勝候補の筆頭龍谷千葉とは準決勝、そして春の大会で負けてる船町北とは決勝って、考えられる限りうちにとっては最悪な組み合わせじゃねえか!」

「すみませんでした」

(なんて理不尽な説教なんだ。だいたいじゃんけん大会の優勝者が抽選するってのがそもそも間違ってるんだよ。じゃんけんに運を使い果たした俺に抽選なんてさせるからこんな結果になったんだ。来年からは、逆にじゃんけん大会で最下位になった1番運が残ってる奴を抽選に行かせなきゃダメだな)

 一方その頃、龍谷千葉高校でも、抽選を終えた1年生マネージャーが帰ってきた所だった。

「監督、抽選結果はこのようになりました」

「……そうか。じゃあマネージャーの仕事に戻ってくれ」

(そうか。船町北とは決勝まで当たらないのか。春の大会でたったの6点しか取れなかったあの屈辱……決勝の舞台でキッチリ晴らさせてもらうぞ)