安達弾~打率2割の1番バッター~ 第10章 練習試合2試合目 船町北VS大阪西蔭⑨
8番バッターの川本に対して、黒山は鶴田のサイン通り外角低めにストレートを投げようとするも、真ん中よりの甘いコースに向かっていた。
「カキーン!!」
打球はセンター前ヒットとなった。
(さっきからコントロールが甘くなってるな。でもあと1人だ。なんとか堪えてくれ黒山)
9番バッターの水島に対して、鶴田はまた外角低めのサインを出すも、今度は大きく外に外れるボール球となった。
(外角は投げづらいのか? ならここならどうだ?)
鶴田は内角にサインを出すも、今度は内に大きく外れてしまう。
「痛て!」
球は水島の太ももを直撃した。
「デッドボール!」
(やっぱり思った通りや。星田にデッドボールを出して以降、ストレートしか投げてへん。多分マメでも潰したんやろな。そして頼みのストレートすらコントロールがつかんくなっとる。そして次のバッターは三浦。チーム1の選球眼をもつ三浦なら、甘いコースにきたストレートを捉えるか、しっかり四球を選択できるはずや。これでサヨナラ。うちの勝ちで決まりや)
鶴田はタイムをとると、さすがに限界がきている黒山を交代させようとしたが、その前に黒山の方から鶴田に話しかけてきた。
「鶴田、お願いがあるんだ」
「ああわかった。今日のお前は大阪西蔭打線相手に11回も無失点に抑えてほんと良くやったよ。黒山、お疲れ様。それじゃあ監督に言って交代してもらおうか」
「いやいや交代しねえよ!」
「えっ? じゃあお願いってなんだよ?」
「次からのサイン、全部ど真ん中に構えてくれ。デッドボールやパスボールだけは避けたいからな」
「それはいいけど、本当に投げられるのか?」
「満塁のピンチにエースがマウンドを譲るなんてありえねえだろ。それに今なら、ワインドアップで本気のストレートが投げられる」
この日の黒山はまだ、ワインドアップでの投球を1度も披露していなかった。
「もうこうなったら当たって砕けろだ。黒山、後悔のないように全力で投げてくれ」
「おう!」
1番バッターの三浦に対しての初球、黒山は大きく振りかぶるワインドアップ投法で、鶴田が構えるど真ん中めがけて、ただただ何も考えず全力で球を投じた。
(うまい具合に散らばってくれー)
そう願っていた鶴田の思いは届かず、球は鶴田が構えていたミット通りのど真ん中に向かっていた。
(ど真ん中! これで終わりや!)
三浦のスイングは、鶴田が構えたミットと同じ高さの軌道上で行われ、タイミングも完璧だった。
(打たれる!)
そう鶴田が思った瞬間、三浦のスイングから逃げるように球がボール1個分だけ浮き上がった。
「ボン!」
鶴田は黒山のストレートをキャッチできず、球は胸の防具を直撃した。幸い鶴田のすぐ目の前に跳ね返ったためサードランナーはその場でストップした。
「ストライク!」
(危ねー俺のエラーで試合が終わる所だった。黒山のストレートをキャッチできないなんて初めて黒山とバッテリーを組んだ1年の頃以来だな。それにしても、今のストレートは凄かった。そういえばここ最近、黒山のワインドアップからの全力投球受けてなかったな。ペース配分を考えた抑えめの投球から解放された黒山のストレートは、ここまで進化していたのか)
(球が浮いた? いやいやそんなん物理的にありえんやろ。でも確かに浮いたように見えた。それくらいキレのある球っちゅーことやな。もうボロボロのはずなのにようこんな球投げよるわ)
三浦はバットを短く持ち直した。
(俺は大阪西蔭のリードオフマン。ストレートしか投げれんピッチャー相手に出塁できひんなんて許されへん)
2球目、黒山の球はさっきよりも若干内角よりの高めに向かっていた。
「カーン!」
「ファール!」
(俺の全力ストレートに2球目で当ててくるか。さすがは大阪西蔭の1番バッター。ミート力がすごいな)
(くそ、当てるので精一杯や)
3球目、黒山の球は外角の少し低めに外れた。
「ボール!」
4球目、今度は外角の少し高めに外れた。
「ボール!」
(追い込まれているこの状況から2球連続で見逃してくるとは。選球眼も半端ない)
(見逃したっちゅうよりも手が出えへんかった。甘いコースだけに絞らんと打てる気がせえへんわ)
5球目、黒山の投じた球は、真ん中高めのストライクゾーンに入っていた。
「カーン!」
「ファール!」
(くそ、また粘られた!)
(くそ、また捉えられへんかった!)
そして、運命の6球目。黒山の投じた球は、外角寄りの高めのコースに向かっていた。
「カーン!!」
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