安達弾~打率2割の1番バッター~ 第10章 練習試合2試合目 船町北VS大阪西蔭④

2020年12月29日

『この試合は十中八九千石と黒山の投手戦になるだろう』

 4回、5回、6回と、両チーム共に無安打無失点が続き、試合前に鈴井監督が話していたこの言葉が現実になっていた。 

『そこで今回は1番千石から得点を奪える可能性の高い安達に打席が回る数を1つでも増やすために打順を先頭にした』

 7回表。安達にとって千石と3度目の対戦の機会が回ってきた。もしもいつも通り安達を4番にしていたら、7回に安達の打順が回ってくる前に回が終了し、千石は降板。安達との3度目の対戦は叶わないまま終わっていたことだろう。これも鈴井監督の狙い通りだった。

(安達はこれまでの練習試合でも、3打席連続で無安打になったことは1度もない。つまり、この打席は100パーセント打ってくれるはず。期待してるぞ!)

 しかし、鈴井監督の期待もよそに安達はあっさりと1ボール2ストライクと1度もバットを振らないまま追い込まれていた。

(いくら安達でも、高校ナンバー1ピッチャー相手には通用しないのか)

 鈴井監督だけでなく、船町北ナイン全員がそんな諦めムードを感じ始めていたその時、大きな打球音が鳴り響いた。

「カキーン!!!!」

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 安達は4回に見逃し三振を食らって以降、ベンチで目を瞑りながら千石との2打席分の対戦の中で投げられた球を何度も繰り返し思い出していた。

(ストレート……高速縦スラ……曲がりの大きいスライダー……高速横スラ……)

 何度も何度も繰り返し思い出す中で、安達はそれぞれの変化球の特徴を整理していた。

(高速横スラ……変化量はピッチングマシンのスライダー中くらい。一見変化する直前まではストレートと全く同じ軌道に見えるけど、よく思い返すと投げた瞬間から微妙に横の変化が始まっていた気がする。曲がりの大きいスライダー……変化量はピッチングマシンのスライダー強くらい。これも高速縦スラと同じく最初から微妙に横に変化していた。この変化を見逃さなければ前の打席のような遅いストレートに引っかけられることもなくなるはず。そして高速縦スラ……変化量はピッチングマシンのフォーク中くらい。この球だけは攻略の糸口が見つからないな。次の打席でもっとよく見直さないと)

 こうして臨んだ千石との3度目の打席。初球は内角低めギリギリへの高速横スラ。見逃しストライク。

(やっぱりそうだ。わかりづらいけど、最初から微妙に横の変化が始まっている)

 2球目、外角低めにストレート。わずかに低めに外れてボール。そして3球目、外角低めに今度は高速縦スラ。見逃しストライク。

(なるほど。最初に対戦した時は気付かなかったけど、ストレートの軌道と比べるとほんの少しだけ最初の軌道が山なり気味になってるな。これで千石の全球種見極められるぞ)

 4球目、千石の投じた球は、内角を抉る高速スライダー。安達は千石が投じてすぐにそう確信してバットをフルスイングした。

「カキーン!!!!」

 安達の打球はライト方向への特大ファールとなった。

(くそっ、もうちょっとだったのに)

(内角ギリギリの厳しいコースやったおかげで何とか助かったけど、ちょっとでも甘いコースにいってたら完全に入っとったな。前の打席までは全然打たれる雰囲気もなかったのに、今の打球は完全に高速横スラを見極められていた。さっきまでひよっ子や思うとったのに、今はすっかり親鳥の風格や。こいつを抑えるには、ギアを最大まで上げなあかんな)

 千石は今日の試合、というより練習試合全般で本気の力で投げることはほとんどない。なぜなら8割程度の力を出せば十分抑えることができるからだ。一発勝負の甲子園ならともかく、練習試合で無駄に本気を出して怪我をするリスクを高める必要はない。そんな考えを持つ千石が、珍しく本気で投げることを決断した。安達の特大ファールは、千石にとってそれだけのインパクトを与えるものだった。

 5球目、千石は外角高めにストレートを投じた。

(今度こそ決めてやる!)

「カーン!」

 安達のスイングはかろうじてボールの下をかすり、ファールボールとなった。

(球速が上がった! ていうか今の球、ピッチングマシンのストレートよりも速く感じたぞ。まさかの160キロ越え? いやいやさすがにそれはないよな。ということはスピード以上にキレが増したってことか。千石さん、今までまだ全力じゃなかったんだな。さすがは高校ナンバー1ピッチャー。面白くなってきたぞ)

(今の球を当ててくるんか。これでまだ1年……末恐ろしい奴やな。ここは先輩として、きっちり若い芽を潰しとかなあかんな)

 6球目、千石の投じた高速縦スラは、曲がりが大きすぎて地面にワンバンするボール球となった。

(やっべ。久しぶりに本気で投げたから調節できへんかったな)

(見送った、というより手が出せなかった。なんて鋭い変化をするんだ。変化量をピッチングマシンのフォーク中から強に訂正しておこう。ということは、横スラ系の球も変化量が増えることを想定しておいた方がよさそうだな)

 7球目、外に外れたコースから中に入ってくる高速横スラに、安達はフルスイングした。

「カーン!!」

(ガーン……横スラは変化量変わらないんかい!)

 安達が想定していたほど高速横スラの変化量は少なかった。しかしその分予測よりも球速が速かったため若干振り遅れた形でバットの先に当たり、ボテボテのサードゴロとなった。しかし、大阪西蔭の守備は安達の長打を警戒して下がり気味に守っていたこともありサードの処理が遅れた。

「セーフ!」

 完全に打ち取った当たりだったものの、安達の打球は運よく内野安打となった。

(なんやスッキリせえへん結果になってもうたな。まあええわ。安達君、この勝負の続きは甲子園でやろうや。まっ、そっちが甲子園まで勝ち上がることができればの話やけどな)

 船町北 0-0 大阪西蔭