安達弾~打率2割の1番バッター~ 第10章 練習試合2試合目 船町北VS大阪西蔭③

(黒山の奴、あれほどスライダーのコントロールを改善しろと言ったのに、全然できてないじゃないか! なーんて、監督に思われてるかもしれないな。もちろん俺だって改善したいのは山々だ。監督に言われる前からずーと試行錯誤はしてきた。でもなかなかうまくいかないんだよな。それでも今まではなんとか通用してきた。ただ、相手が強豪になればなるほど簡単には見逃してくれなくなる。この際、スライダーはキッパリ諦めて別の変化球を試すか)

 4回表。1番バッター安達の2打席目が回ってきた。

(前の打席で千石の持ち球は高速横スラ以外は全部見れた。あの中で1番打ちやすい球はストレートだけど、高速縦スラと途中まで軌道もスピードもほとんど同じだから見極めづらい。となると、唯一球速が遅めの曲がりの大きいスライダーが1番狙い打ちしやすいな)

 初球、千石の投じた球は、高めの外に少し外れたコースから鋭く変化し外角高めのストライクゾーンへと入ってきた。

「ストライク!」

(今のが高速横スラか。この球も高速縦スラと同様見極めづらいな。やっぱり狙うは曲がりの大きいスライダーだ)

 2球目、内角低めにまたもや高速横スラ。

「ストライク!」

(くそーあっという間に追い込まれた。でも狙いは変えない。あくまで本命は曲がりの大きい横スラ。それ以外の速い球は基本見逃す。もしも打てそうなコースだったらストレートだと決めつけて振りにいこう。高速の縦スラか横スラだったら空振り三振になるけど、この際仕方がない)

 3球目、千石の投じた球は、大きく外に外れていた。球速は遅め。

(これは、前の打席で三振を食らったシチュエーションと全く同じ。ここから大きく曲がってストライクゾーンに入ってくるあのスライダーに間違いない!)

 安達はそう確信してフルスイングをしにいくも、球は外に大きく外れたまま真っすぐ進んでいく。

(えっ! スライダーじゃねえの?)

 安達は慌ててスイングを止めようとするも、間に合わなかった。

「ストライク! バッターアウト!」

(ラッキー。あんな外した球をまんまと振ってくれたわ。監督があの1年には注意しとけっちゅうからどない奴かと思たけど、所詮はまだまだ経験不足のひよっ子やな)

 安達が千石に2打席連続三振を食らっていた頃、黒山は鶴田にある相談をしていた。

「ちょっと球受けてくれないか?」

「まだ1アウトだぞ。早くね?」

「見てもらいたい球があるんだ」

「それってもしかして……」

「さっき百瀬に教えてもらったカットボールだ」

「そんな付け焼刃の球使い物になるのか?」

「それを見てもらうために投げるんだよ。ほら、防具つけて早く準備してくれよ」

「わかったよ」

 鶴田が防具を付け終わった頃、2番バッターの白田がキャッチャーフライを打ち上げてアウトになっていた。

「時間がない。鶴田早く!」

 実はこの白田のキャッチャーフライ、千石の連続奪三振記録を10で止める記念すべきフライだったのだが、そんなことは今の黒田にはどうでもいいことだった。

「じゃあ早速カットボールいくぞ!」

 黒山がそう言って投げたカットボールは、変化する方向が逆なことを除けばほぼ百瀬がさっきまで投げていたカットボールと瓜二つの代物だった。まさかここまでの出来だとは思ってもいなかった鶴田は、キャッチしきれずに後ろに逸らしてしまった球を拾いに行って投げ返しながら言った。

「黒山! お前天才だな。この球は使えるぞ。早速次の回から投げていこう」

 4回裏。黒山がカットボールを使い始めたこの回から、黒山無双が始まった。

「ストライク! バッターアウト!」

(何やあのカットボール。球速が速い上にこの鋭い変化。こんなエグイ球隠しとったんか)

「ストライク! バッターアウト!」

(えげつないカットボールやで。こんなもん初見で打てる訳ないやろ)

「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」

(ネクストバッターズサークルから見た以上にやばい球やな。でもこの球、どこかで見たことがあるような……)

 3回まで毎回ヒットを打たれていた黒山だったが、カットボールを投げ始めたこの回からは1人の走者も許さない圧巻のピッチングを続けた。

(3回まではいずれは打ち崩せる思うとったけど、まさかあんな変化球を隠しとったとわなあ。黒山聡太か……要チェックやな。それにしてのあの変化球、百瀬のカットボールに似とるなあ。もしかして、百瀬があいつに教えたんとちゃうやろな? まっ、そんな訳あらへんか)

「へっくしょん! やべ、風邪でも引いてもうたかな。体冷やしてこれ以上悪化せえへんように、しっかり汗拭かんとな」

 その頃別のグラウンドで練習をしていた百瀬は、自分が黒山に教えたカットボールのせいでチームが苦戦していることなどつゆ知らず、黒山からもらった虹スぺのタオルで汗を拭いていた。