浮いた話(東京新聞300文字小説没作)

 社会人になっても彼女の一人も家に連れてきたことがない息子。 

 心配になった私は、息子にそれとなく話を聞いてみることにした。

「あんた、最近浮いた話とかないの?」

「そういえばこの前、前を歩いていた女性が落とした財布を拾ってあげたら、お礼がしたいって言われてさ」

「へーそれでそれで」

「丁度昼飯を食べる予定だったから、その女性にご馳走してもらったんだよ」

「えー良かったわね。で、その子とはその後どうなったの?」

「いや、それっきりだけど。連絡先も知らないし」

「何よそれ。その話のどこが浮いた話なのよ」

「いやだから、昼飯代が浮いたって話だよ」