くよくよ(東京新聞300文字小説採用作)

「たかし、いつまでくよくよしてるんだよ。財布落としたくらいでみっともないぞ。そんなに大金が入ってたのか?」

「100円だけ」

「じゃあそんなに落ち込むなよ」

「だって、お父さんとおそろいのお気に入りの財布だったんだもん」

「わかったよ。それじゃあ、また同じ財布を買ってやるよ」

「やったー! ありがとう、お父さん」

「これからは気をつけるんだぞ。さあ、行こう」

「いらっしゃいませ」

「これと同じ財布ありますか?」

「はい、1000円になります」

「えーと…あれ? 100円しか入ってないぞ。まさか…」

 

「お父さん、いつまでくよくよしてるの。元気だしなよ」