時価②(東京新聞300文字小説没作)

 初任給をもらった僕は、自分へのご褒美に、生まれて初めての回らない寿司屋での食事を楽しんだ。

 回らない寿司屋で食べる寿司は、スーパーの総菜コーナーや回転寿司で食べるそれとは別次元のおいしさで、僕は大満足だった。

 しかし、怖いのはこの後だ。実はこのお寿司屋さん、メニューが全て時価なのだ。そのため、一体どれだけの金額になるのか、僕はどきどきしながら会計をお願いした。

「お会計一万円になります」

 うわ―結構するんだな。だけどおいしかったし、まあしょうがないか。

 僕が財布から一万円札を出そうとしたその時、お店の時計の針が九時を指した。

「あっ、お客様。申し訳ございません。たった今、お会計が一万二千円になりました」