髭(東京新聞300文字小説没作)

 私がこの野球部の監督を務めてから今年で3年目になる。

 厳しい練習をしてきた部員達は、初の甲子園出場を狙える程の実力を身につけていた。

 しかし、心配なことが一つだけあった。部員達が最近、髭を伸ばし始めたのだ。身だしなみの乱れは心の乱れ。私は部員達を集めて注意をした。

「おいお前ら。髭なんて伸ばしてる暇があったらもっと練習しろ。調子に乗ってんじゃねえぞ」

 すると、部員達はこう言い返してきた。

「監督、僕達は髭を剃る暇も惜しんで毎日必死に練習しているんです。調子になんて乗っていません」

 その年、うちの野球部はついに念願の甲子園出場を決めた。部員達の顔には、立派な髭が蓄えられていた。