僕は折り畳み傘(東京新聞300文字小説没作)

 僕は折り畳み傘。ずいぶん前にご主人様のカバンの中に入れられて以来、しばらくの間外に出ていない。

 あー暇だなー。早く働きたいな―。

 あっ、急に雨が降ってきた。

 確か今日はご主人様、普通の傘は持ってきてなかったはず。

 ようし、これでやっと働けるぞー。

 あれ? ご主人様、なんでそんな所で雨宿りなんてしてるの?

 僕を使えばいいじゃん。おーい、ご主人様ー。

 ご主人様が僕をカバンの中に入れていたことを思い出したのは、それから1年後のことだった。