10分間有給(東京新聞300文字小説没作)

「すみません、有給休暇の申請をお願いしたいんですが?」

「えーと、午前11時50分から12時までの10分間の有給を240日分って、何だそりゃ? 前代未聞だぞ」

「ダメですか?」

「いや、うちの会社では一応5日分までの有給は時間単位での取得が認められている。だから10分×240日分だと40時間になるから、丁度5日分の有給を消費すれば可能だ。でも、どうしてこんな有給を?」

「ランチ戦争に勝つためです」

 部下が取った10分有給はたちまち会社中で話題となった。

 一足早く昼休みに入り、人気店のランチを行列に並ばずに食べる部下。

 そんな部下の姿に憧れて、今では我が社の社員の約半分が、この10分有給を利用している。